かにみそ原料として日本市場でも定評のあるブラウンクラブ。その主要産地であるアイルランドは、EU加盟国の中でも水産輸出国としての存在感を高めています。原料調達担当者にとって、産地の漁獲管理体制を理解することは、安定供給と持続可能性の両立を判断するうえで欠かせない要素です。
本稿では、アイルランド水産業の規模感、EU共通漁業政策に基づく漁獲管理の仕組み、国家的な食品サステナビリティプログラム「オリジン・グリーン」、そしてブラウンクラブに適用される具体的な資源管理規則について、公的情報に基づいて整理します。
アイルランド水産業の規模と輸出構造
世界75か国以上への輸出実績
アイルランド政府食糧庁(Bord Bia)の公表情報によれば、アイルランド産水産物は世界75か国以上に輸出されており、輸出額は約813億円規模(2022年)に達しています。ヨーロッパ最西端に位置し、広大な北大西洋の漁場を有するという地理的優位性が、この水産輸出国としての地位を支えています。
日本市場への輸出も着実に拡大
日本向け輸出は近年、最も成長著しい市場のひとつです。2023年の対日輸出は数量7,504トン、金額1,490万ユーロを記録。サバ・アジといった遠海魚に加え、ラングスティーヌ、ヨーロッパ・ブルーロブスター、ブラウンクラブなどの甲殻類が、高級業務用市場で着実に認知を広げています。日本はアイルランドにとって、サバ・アジ分野で世界2位の輸出市場という位置づけです。
主要な輸出品目と水揚げ港
アイルランドの主要水産物は以下のように分類されます。
▶ 遠海魚(ペラジック):サバ、アジ、ニシン
▶ 底魚(デメルサル):コダラ、メルルーサ、ホワイティング
▶ 甲殻類:ブラウンクラブ、ラングスティーヌ(手長えび)、ヨーロッパ・ブルーロブスター
▶ 貝類:牡蠣、ムール貝、ツブ貝、マテ貝
▶ サーモン:アトランティックサーモン
北西部ドネゴル郡のキリベグス(Killybegs)港は、国内最大のアジ・サバ・ニシンの水揚げ拠点として知られ、近代的な冷凍・選別設備を備えた加工施設が集積しています。
EU共通漁業政策と漁獲管理の仕組み
総漁獲可能量(TAC)と国別割当
EU加盟国であるアイルランドは、EU共通漁業政策(Common Fisheries Policy:CFP)の枠組みのもとで漁獲管理を行っています。CFPは2013年に最終改定され、最大持続生産量(Maximum Sustainable Yield:MSY)の原則に基づき運用されています。
CFPの中核をなすのが、総漁獲可能量(Total Allowable Catch:TAC)制度です。TACは国際海洋探査協議会(ICES)および漁業科学技術経済委員会(STECF)の科学助言に基づき設定され、毎年12月にブリュッセルで開催される閣僚理事会で決定されます。各加盟国には、この枠内で配分された国別割当(クォータ)が与えられ、アイルランドの漁業者は自国の割当を超えない範囲でのみ商業漁獲が可能です。
ライセンス制と混獲防止ルール
アイルランドでは、商業漁業ライセンスを保有する漁業者のみが漁獲を行える厳格なシステムを採用しています。違法な漁や乱獲行為は取り締まりの対象となります。
さらに、対象魚種以外が網にかかる「混獲」を最小化するため、漁期・海域・漁具(網目サイズ等)に関する細かな技術規則が設定されています。2019年以降は全漁獲物陸揚げ義務(landing obligation)が本格運用され、投棄の慣行が段階的に廃止されています。
BIMによる責任ある漁業管理
アイルランド漁業開発庁(Bord Iascaigh Mhara:BIM)は、水産業界と連携して「責任ある漁業管理システム(Responsible Seafood Scheme)」を推進しています。2021〜2027年の欧州海洋漁業養殖基金(EMFAF)では、アイルランドに総額2億5,840万ユーロ(うちEU拠出分1億4,240万ユーロ)が配分され、Brexit対応の調整準備金として別途3億800万ユーロが割り当てられています。これらの予算は漁業の近代化と持続可能性の向上に活用されています。
国家プログラム「オリジン・グリーン」の位置づけ
世界初の国家的食品サステナビリティ制度
Bord Biaが運営する「オリジン・グリーン(Origin Green)」は、2012年に始動した食品サステナビリティプログラムです。現在ではアイルランドの食品企業の大半が参加する、国家規模のサステナビリティ認証制度として機能しています。
参加企業は、原料調達から加工・流通に至る全工程で、以下のような検証可能な目標への取り組みが求められます。
・責任ある漁業者からの原料調達
・資材のリサイクル
・廃棄物・CO2排出量・エネルギー使用量・水使用量の削減
・生物多様性の維持
・社会的持続性の実現
SDGsとの整合と国連との連携
オリジン・グリーンは2015年に国連で採択されたSDGs(持続可能な開発目標)と多くの目標で共通項があり、Bord Biaは2018年に国連グローバル・コンパクト(UNGC)に加盟。民間企業のSDGs達成を支援する枠組みとの連携を深めています。
ブラウンクラブの漁獲管理と資源特性
TAC対象外の「非割当魚種」という位置づけ
かにみそ原料として重要なブラウンクラブ(学名:Cancer pagurus、1758年リンネ記載)は、アイルランドのEEZ内で漁獲される最も経済価値の高い非割当魚種(non-quota species)です。これは、TACによる漁獲量制限が設定されていない魚種であることを意味します。
アイルランドの年間漁獲量は約13,000トン。世界全体の漁獲量約45,000トンのうち、英国20,000トン、フランス8,500トン、ノルウェー8,500トンと並ぶ主要生産国の一角を占めています。
最小保存参照サイズ(MCRS)による資源保護
TAC対象外ではあるものの、ブラウンクラブにはEUの最小保存参照サイズ(Minimum Conservation Reference Size:MCRS)規則が適用されます。EU海域におけるICES海区5、6(北緯56度以南)、7(ただし7d、7e、7f海区を除く)では、甲幅130mm未満の個体は水揚げが禁止されています。
スコットランド海域では、より厳しい独自規制として甲幅150mm(シェトランド諸島は140mm)のMCRSが設定されており、海域ごとの成熟サイズに応じて管理が細分化されています。MCRSは個体が少なくとも一度は繁殖できる機会を確保するためのものです。
カゴ漁という低影響漁法
ブラウンクラブの漁獲にはカゴ漁(crab pots / creels)が用いられます。これは固定式の受動的漁具で、底引き網漁のように海底を引きずる漁法と比べて海洋環境への負荷が小さい「passive low-impact fisheries」に分類されます。混獲も少なく、海底生態系を攪乱しにくい点で、持続可能性の観点から評価の高い漁法です。
抱卵メスの保護と生物学的特性
EU域内の多くの国で、抱卵メス(卵を腹部に抱えた雌個体、berried females)の漁獲が規制されています。さらに生物学的特性として、抱卵メスは6〜9か月間、海底の穴に潜んで餌をほとんど摂取しないため、そもそも餌で誘引するカゴ漁には入りにくいという性質があります。この結果、幼生供給に与える漁獲圧の影響は限定的だとされています。
ブラウンクラブは寿命約20年、甲幅150mmに達するまで約6年を要する成長の遅い種です。脱皮のたびに成長し、資源の再生産能力を維持するためには、この生活史を踏まえた管理が不可欠とされています。
原料調達における持続可能性の意義
原料調達担当者にとって、アイルランド産甲殻類を選択することは単なる「品質重視」以上の意義を持ちます。EU共通漁業政策によるTAC管理、ブラウンクラブのMCRS規制、オリジン・グリーンによるトレーサビリティ、BIMによる業界基準という多層的な枠組みが、供給の安定性と持続可能性を担保しているためです。
自社の最終製品においてESG要件・サプライチェーン開示・トレーサビリティの要請が高まる中、このような体系的な産地管理が行われている原料を選択することは、調達戦略上の強みになり得ます。
エスケイ・インターナショナル株式会社では、アイルランド産ブラウンクラブかにみその安定供給を37年の輸入実績に基づき継続しています。産地情報・品質仕様・ロットごとの規格など、調達判断に必要な情報をご提供いたします。
▶ 関連情報:えびみそ・かにみそについて
アイルランド産水産原料のお問い合わせ
エスケイ・インターナショナル株式会社は、アイルランド産ブラウンクラブかにみそをはじめとする海産物加工原料の輸入卸販売を専門に手がけています。37年の輸入実績をベースに、食品メーカー・水産加工メーカーの原料調達をサポートいたします。
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